世界中の子供達を新型コロナウイルス感染から救う簡易フェイスシールドのデザイン開発に成功
-子供達が作れる簡易フェイスシールドで笑顔溢れる学校教育の再開に期待-
概要
京都大学アイセムス (高等研究院 物質-細胞統合システム拠点)イーサン・シバニア研究グループの太田秀彦(研究員)、アンドリュー・ハロルド・ギボンズ(研究員)、石田彰紀(学部学生4回生)、イーサン・シバニア教授らは、同グループが国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム」(START)の採択により設立したスタートアップ企業株式会社OOYOO(京都市)と共同で、リサイクルに適している「透明なプラスチックや紐といった身近な材料をもとに、ハサミや穴開けパンチなどの道具で誰でも簡単に作ることが可能な新規のフェイスシールドの開発」に成功しました。新型コロナウイルス感染拡大は、社会経済活動を維持するため個人防護具(PPE:Personal Protective Equipment)の需要が急増し、プラスチックごみの増加、処理によるCO2排出の増加など新たな環境汚染問題が懸念されています。環境に配慮した材料開発と設計等における研究成果により実践的な応用利用が求められ、開発に至りました。
新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす影響を最も長期にわたって受けるのは未来を担う子供たちです。小学校等の学校教育の現場のみならず、移民キャンプや人口密度の高い地域、社会的に距離を置く事が困難な状況に置かれている子供たちは感染への不安、学校の閉鎖、友人の笑顔が見られないことなど大きな影響を受けます。
開発されたフェイスシールドは現在までにタイ、インドネシア、インドの小学校や子供達へ届けられています。また、11月22日にOOYOOとThe pan-African association The Cowry Networkは、アフリカの子供たちにファイルシールドを届けるプロジェクトにおいて正式にパートナーシップ協定を締結し、第一便として12月7日にアフリカのガーナにフェイスシールドを送りました。今後はカメルーン、コートジボワールの孤児院や学校へ寄贈する事が決まっております。(パートナーシップ協定詳細はこちらからご覧になれます。)
写真:ガーナに向けて送付する様子
1.背景
イーサン・シバニア教授の研究グループ「Pureosity」は、水の浄化や、二酸化炭素などの環境に有害なガスを取り除くのに有効な先端的な材料開発に取組んでいます。シバニア教授は、「研究を通して、孫の世代が健康で清潔に暮らせる世界をつくる」ことをビジョンに掲げ、様々な世代とバックグランドを有する研究者や学生と研究教育活動に取組んできました。同グループが開発した「インクを使わず高精細、フルカラー印刷ができる新技術」が内閣府政府発行「Highlighting Japan 10月号」で紹介される等、国内外からも高く注目を集めております。
同グループでは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム」(START)の支援をうけ、研究成果を社会に実装するためにスタートアップ企業OOYOOを設立しました。同社は、本グループに所属の山口大輔准教授が代表、三箇山茂之(研究員)が取締役を務める空気やその他のガス分離技術の開発と実用化に取り組む京大発ベンチャー企業です。
新型コロナウイルスが感染拡大し、マスク等の感染防止のための防護具が不足し入手困難になるなか、自分たちの研究や技術・アイデアを最大限に活かして「今できること」はないかと模索しました。感染への不安、学校の閉鎖、友人の笑顔が見られないことなど、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす影響を最も長期にわたって受けるのは未来を担う子供たちです。中でも教育にアクセスできない場所、移民キャンプや人口密度の高い地域、社会的に距離を置く事が難しい場所などの不利な状況に置かれている子供たちは特に大きな被害を受けます。
企業で生産設備技師として働いていた経験を持つ太田秀彦氏は、シバニアグループの学生が研究のアイデアを実際に応用できるかを試すプロトタイプの製作の際に、技術的な指導やアドバイスをする指導者としてグループに携わっています。数ヶ月前、コロナ禍において地域や社会のために出来ることはないかと考えていた同氏は、身近な材料と道具を使って作成できる防護具を着想し、透明なプラスチックフィルムや紐といった材料と、ハサミや穴開けパンチなどの道具で簡単に作れる新しいフェイスシールドをデザインしました。シバニア教授の指導のもと、折りたたみ・持ち運びが可能で、リサイクルに適していることを追求し、できる限りプラスチックの使用量が低減できるよう設計し、改良と試作を繰り返しました。シバニアグループの学生や研究者と一緒に、自分たちが社会に少しでも貢献できる取り組みを模索した末、非営利の国際協力活動として、同研究室のアンドリュー・ギボンズ博士とともに、世界の社会的に不利な立場にいる人々にフェイスシールドを届ける取り組みを始めました。この取り組みに賛同したスタートアップ企業OOYOOの協力を得て、このフェイスシールドは「OOYOO FACE」と名付けられ、更に多くの世界中の子供たちに届けられるよう活動を展開しています。
写真:フェイスシールドの写真 (Children in Lille, France making faceshields)
写真:各国での配布活動の様子
2.研究手法・成果
このフェイスシールドは、A4サイズのPETシートを折りたたみ、容易に作成できるよう設計されました。リサイクルが可能で持ち運びができるよう工夫しています。材料には、リサイクルに適した身近な材料を重視するという観点から、できる限りプラスチックの使用量を低減し、印刷加工を行わないよう配慮しました。設計や材料がシンプルで簡便であることは、世界に広く普及する際に、それぞれの国に適した生産や普及方法に容易に対応することが可能と考えました。
京都大学のシバニア教授グループは、慶應義塾大学の奥田知明教授と共同で、新型コロナウイルス感染症への対策に関する共同研究を、感染拡大の初期から継続して進めています。エアロゾル工学を専門とする奥田教授は、マスクに関する粒子計測技術を基にシバニアグループをサポートしています。今回のプロジェクトにおいて奥田教授は、高感度カメラを用いた微粒子可視化装置を用いて、このフェースシールドにより呼気中の飛沫の飛散をどのように防止できるかについて明らかにしました。(奥田教授のYouTube Videoはこちらからご覧になれます。)
シバニア教授の研究グループPureosityは、CO2回収技術の創出という長期的な目標を掲げ、持続可能な未来のための研究開発に日々邁進し、特にろ過・膜技術に関連したインパクトのある研究を行っています。メンバーは、膜、フィルター設計、ポリマーの専門家と企業の技術開発経験者等で構成され、ユニークでダイバーシティな研究グループであることが特徴です。研究成果の社会実装をミッションとしており、様々な企業との連携に取り組んでいます。今回開発したフェイスシールドの配布活動では、製造や流通において慈善団体や企業等とのコラボレーションを行っています。
このフェイスシールドの普及については、できる限り多くの子供たちにフェイスシールドを届けることを優先し、研究グループのネットワークを活かしてニーズを募り、京都大学周辺の吉田児童館やタイ、インドネシアを始めとする教育の場での普及に取り組んでいます。吉田児童館では、新型コロナウイルス感染症の感染防止に関する教育とフェイスシールドの作成方法のレクチャーを、子供たちが親しみやすいイベント形式で実施しました。子供たちは、折り紙のように工作するフェイスシールドに、好きなシールやマジックで装飾し、私たちはのびのびと自由な子供たちの創作意欲を垣間見ることができました。タイやインドネシアでも、形式にとらわれず、子供たちが楽しんでフェイスシールド作りに参加できる場を設定しています。これを契機に、京都から日本全国、世界にも普及活動を展開していきます。
写真:吉田児童館の写真
3.波及効果
感染への不安、学校の閉鎖、友人の笑顔が見られないことなど、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす影響を最も長期にわたって受けている世界中の子供たちを中心に普及活動を行っています。このユニークなフェイスシールドを教材として、新型コロナウイルスの感染防止教育、リサイクル方法を知ることによる環境教育を実施することが可能であり、SDGsに準じた安全と環境に配慮した行動が促されることに資すると考えています。
また、子供たち自身がフェイスシールドを創作することは、コロナ禍で減退している子供たちの創作意欲を引き出し、「創るよろこびwithコロナ」という、まだ不安な状況が続くコロナ禍でコロナと共生していくマインドを醸成する効果があると思われます。
新型コロナウイルスだけでなく様々な感染症リスクが世界規模で増大しており、この活動はその予防策となり、子供たちだけではなくあらゆる年齢層・世代に適用可能であると考えます。
4.今後の予定
カメルーン、コートジボワールの孤児院や学校へも寄贈を予定しており、必要としている地域に向けて、京都から日本全国、世界に普及活動を拡大していきたいと考えています。
世界各地でのOOYOO FACEの活動の様子や、作り方動画はOOYOO FACEのページでご覧ください。